670, Katsuno, Takashima-shi, Shiga-ken, Japon.
1993 : Ichiyo Uta Architect & Associates.
滋賀県高島市勝野670
1993年:歌一洋建築研究所
滋賀県中北部、琵琶湖を東に望む高島市ののどかな田園地帯にある公共施設。敷地面積およそ7,700平米のなかに建てられた、音楽ホール、図書館、公民館などを含む大規模建築です。
設計したのは、関西を中心に個人住宅からオフィスビル、寺社建築までを幅広く手がける建築家、歌一洋。独創的な装飾が施されつつもどこか親しみやすい雰囲気を持つ、歌一洋建築らしさが感じられる作品となっています。個人的には、これは同氏がその手腕をいかんなく存分に発揮した最高傑作のひとつであると思っています。それくらい、外観も内部も見事で観察していて楽しい建築でした。
敷地南西側から見た図。向かって左側、弧を描いた建物は図書館や各種文化活動用の部屋のある棟で、右側は音楽ホールを収めた棟となっております。音楽ホールは500席収容の規模とのこと。
ふたつの大きな妻屋根が特徴的な、音楽ホールのある建物。敷地西側にJR湖西線の線路があるため、列車の通行音を遠ざけるべく音楽ホール棟は東寄りに建てられました。さらにこのあたりは自衛隊のヘリコプター飛行区域でもあるためとりわけ音や振動を防ぐことが課題となった、と、音響設計を担った永田音響設計のサイト(本記事末尾レフェランスのリンクを参照)に書いてありました。
音楽ホール棟を北から眺めた図。屋根頂部の特徴的な鐘楼にはアイルランドから寄贈された4つの鐘が吊るされており、定刻になるとそれらが鳴り響くそうです。施設の愛称に「アイリッシュ」と冠されていることからも分かる通り、アイルランドにゆかりある建築となっております。これは、高島市の人気キャンプ施設「ガリバー青少年旅行村」のモチーフとなった『ガリヴァー旅行記』の作者、J・スウィフトの故国がアイルランドであり、それにあやかったためだそう。余談なのですが、アイリッシュパーク最寄り駅の近江高島駅前にはそういえばたしかに、巨大なガリヴァー像が唐突にそびえたっていてびっくりしました。さらに余談なのですが、それなら高島市はアイルランドのどこかの街と姉妹都市協定でも結んでいるのだろうかと思って調べてみたら特にそのようなことはなく(2025年現在)、若干、熱量の高い片思いといった感があってちょっとほほえましい。
敷地の西側にある、図書館などの入った棟。建物がダイナミックにカーブしています。
図書館棟の南側には、「アイリッシュガーデン」と名付けられた庭が広がっています。
何かの建築的断片とおぼしきものや意味ありげな幾何学的オブジェが散在している、というのがポストモダンな空間の特徴のひとつであるとわたくしは認識しているのですが、その意味でこのアイリッシュガーデンとそれを取り巻く建築は正しくポストモダンであるように感じられました。
建物西端のテラスに至る階段が非常に凝っています。
炸裂する装飾。思わず上り下りしたくなる階段です。
階段を上ると、「イベントテラス」として位置づけられた屋根下の空間に出ます。テラスからは特急のサンダーバードの通行がよく眺められます。
ふたたびアイリッシュガーデンへ。段差を横切る傾斜路がすてき。
音楽ホールの裏手や機械室周辺など、目立たないところの意匠も手が込んでいてたのしい。すみずみまで観察してしまいたくなる魅力的な建築です。
建物主要玄関は北側にあります。
丸みを帯びた柔らかい意匠で統一された玄関となっています。親しみやすさや親近性を建築コンセプトにしたそうなのですが、そうした設計意図が伝わってきます。
音楽ホールのフォワイエ。たくさん設けられた開口によって外光がふんだんに入ってくるおかげで、北面であるにもかかわらず明るい空間になっています。
階段の支持材や手すりの造形、色使いもまた独創的。
こちらは西側、図書館のある棟の、アイリッシュガーデンに面した廊下。曲線を描く通路に外光が差し込む様子がうつくしい。
廊下は大部分が吹き抜けになっていて、高所の窓からも採光されているので非常に明るい空間になっています。
各種の活動部屋の扉の意匠もひとつひとつ凝っています。
こちらは2階図書館に至る階段。音楽ホールのフォワイエにある階段とは異なり、全体として落ち着いた雰囲気のデザインになっています。
エレベーターももちろん完備。エレベーター周りの空間の造形にも、うねうねした曲線が用いられています。
天井が高く、明るく開放的な空間になっている図書館。棟が弧を描く特徴的な屋根の形状がきれいに天井に反映されています。大規模な建物であるにもかかわらず、あらゆる細部まで配慮と意匠的遊びごころが行き届いたすばらしい建築でした。
Références
- 「生涯学習施設 アイリッシュパーク」、歌一洋建築研究所のサイト
- 「アイリッシュパーク」、『公共建築』Vol.37、No.143、公共建築協会、1995年、48-49頁。
- 「琵琶湖西に「アイリッシュパーク」オープン」、『News』93-11、No.71、永田音響設計、1993年。
Photos prises en mars 2025.
2025年3月撮影






























